朝のケネディーパーク

 コリブ川まで早く行ってみたい。どんな店や人に出会えるのか思いを馳せらしたが、これ以上進むのは止める事にした。先ずB&Bの予約をしておかないと、本当に「野宿」になる。「涼しさ」が夕方に向かっている。西果てのゴールウエイの海に太陽が沈んでいく。交差点で一つ海寄りのマ−チャンズ通りに出た。3〜4階建てのビル街で道具や機械の店が並んでいる。レレストランもあるがショッピング街のような華やかさはない。西側には、レンガ造りの長い倉庫群があり波止場の匂いがする。西がコリブ川の河口で、周辺が港になっている。多くの倉庫があるのに運送のトラックやホ−クリフトはない。広い車道の所々に車が数台駐車していが人の姿は少ない。賑やかなウイリアムズ通りとは対照的だ。肌寒さを感じる半袖の人は見かけなくなった。すぐにゴ−ルウエイ・インフォメ−ションセンタ−( i )のビルに着いた。前方にゴールウエイ駅とグレイト・サザーンホテルが見えている。昼過ぎショッピングセンタ−の東出入り口を出て、ウイリアムズ通りを北に向かって歩き、そこから海側のマ−チャンズ通りで折り返した。そこから南に歩き i にやって来た地図上の予定通りである。

 i の建物は小さいく古い。1階はゴ−ルウエイの特産物が売られている。奥にアラン島行き汽船の案内所がある。客の姿は少なく若い女性係員が一人、椅子に座って暇そうにしている。東側に二階への階段があり、「インフォメ−ション・センタ−」と案内されている。iは2階にあるようだ。古い木製の階段を上がると、i の入り口で、そこから一直線の通路が延びている。右側の壁に沿って長椅子が並んでいる。20人ほどが座って順番を待っている。通路左側が受付カウンターで、一直線に木製のカウンタ−が並んでいる。パソコンと電話を前にして、3人の若い女性が対応している。古い木枠のガラス窓から、陽光が部屋いっぱいに入っている。そこで、2人の男性職員が光を背にして仕事をしている。 受付のシステムはダブリン空港の i と同じようだ。ここゴ−ルウエイの案内所はとても忙しそうだ。三人の受付係の若い女性達は、忙しくて少々いらだっている。旅行者で混雑しているなんて思ってもみなかった。ここは、特に人気のある観光地なんだ。長椅子に座ると、「XX番の方どうぞ」と案内の放送が聞こえて来た。同時に大きな電光板にXX番が点灯した。「その事」に気づき「番号札」はどこにあるのだろうと「キョロキョロ」と見回した。

  近くに座っていた中年の夫婦が、「札は入り口にありますよ」と言ってくれた。入り口の機械から番号の書かれた紙が出ている。その上に「番号札を取るように」と書かれていた。アイルランドでも番号札を持って順番を待つ事があるのだと認識を新たにした。彼らの横に座わり「有り難うございました。どれくらいお待ちですか」と聞くと、奥さんの方が「私達20分待っているのよ。このままだとまだまだね」と、目を「キュッ」とした。正面の大きな丸時計が4時を指している。もしあの時、コリブ川まで行ってたら受付の締め切り時間4時30分に間に合ってない。僕は旅先で、気に入った場所に出会うと時間を気にしない。その為に時には大失敗をすることがある。「宿がなくても、駅も警察もあるから何とかなる・・・・」、そんな楽天的な性格を持っている。若いころ「その性格」で、大失敗をした事が思い出される。高校生だった時、友達3人で東京に旅に出た。宿泊費を浮かす目的で、新宿駅のベンチで寝ていた。真夜中に2人の警察官に起こされ、職務質問された。「住所不定」で警察署までつれて行かれた。今回は、そんな事にはならずに済んだ。ヒューストン駅の彼女に感謝している。隣の彼らに、「一階の土産物売場を見てきます。すぐに戻ってきます」と、一言声を掛けておいた。降りる途中で、2階のiに向かう二組の旅行者とすれ違った。

 まだ多くの旅行者が、この案内所を訪れている。このままだと、5時までには全ての案内は終わらないだろう。土産店は工芸品からキ−ホルダ−などが並べられている。ガラス台の上の白いレ−ス編みの布が目についた。直径20cm程の丸形で、端に一輪の三つ葉のクロ−バが緑糸で刺繍されている。清純な純白と緑色のシャムロック、まさしくアイルランドを象徴している。この布の上に、一輪挿しのアイリッシュ陶器の花瓶を置けば綺麗だろう。島のパンフレットを貰おうと、奥の案内所に行った。カウンタ−近くに、黒髪の若い女性旅行客がいた。その彼女の右横側から、カウンター上のパンフレット一部を貰った。パンフレットを見ていると、僕の方を振り向いた彼女は、「日本からおいでですか」と声を掛けてきた。まさか、日本人だと思っていなかったので驚いた。躊躇したが「そうです」と答えた。ごく普通の若い女性だが、どこか心を引く魅力がある。「これから、どこに行くんですか」と聞くと、「ダブリンに戻り日本に帰ります」と、笑顔が綺麗だ。彼女は、「お元気で」とちょこんと頭を下げて出て行った。彼女は学生のようで、リュックサックを背負いジ−パンとスニ−カ姿。そんな彼女を見送りながら、心の中で「元気でね」と言った。僕の次女と、年の変わらないお嬢さんだ。

 案内嬢が、「何かご用でしょうか」と僕の顔を見て尋ねてきた。「日帰りでも行けるんですか」と聞くと、「船は朝の10時に港を出ます、2時間で島に着きます。それから、夕方の出発まで島を見る事が出来ます」と案内してくれた。心の中で「島を見るというより、船旅と考えれば良い」、行くなら明日だ。彼女にフェリ−の発着場所を聞いてから、二階のiに戻った。順番が来るまでアラン島の案内書を見ていた。「古代遺跡、アランセ−タ−」など紹介されていた。わずかな島民、天候の変化の激しい不安定な海で、生活している漁師の島だ。僕は、アラン諸島の海をさらに西へ行くとカリブ海に出る、そしてキュ−バに出会う。そんな旅が出来ればと思いを馳せた。順番が来た1番カウンタ−に行った。「30ポンドまでのバス、トイレ、テレビのあるB&Bを2日間お願いします」と言った。「25ポンドで、タクシ−で10分位の所に有ります。ただし、今日だけは6時頃までに入ってほしいとオ−ナさんが言っているんですが、それでもいいですか」と言ったので、「 いいです」と了承した。手数料を支払い書類を受け取った。まだ10人ほどの旅行者が、長椅子で順番を待っている。外に出た5時の街は夕暮れが近い。人の流れは昼時より多い。夕方の女性は特に綺麗だ。それは、チェスナットの髪と白い肌のせいであろう。タクシ−でB&Bに行くことにした。残り50分ではゆっくり買い物をする余裕はない。「ショッピングセンタ−で食料を買い、B&Bでテレビでも見ながら食事をしよう」と思った。

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